Day3
今は昔、比叡の山に児ありけり。僧たち、宵のつれづれに、「いざ、かいもちひせむ。」と言ひ
①けるを、この児、心寄せに聞きけり。さりとて、し出ださむを待ちて寝②ざらむも、わろか
りなむと思ひて、片方に寄りて、寝たるよしにて、出で来るを待ちけるに、すでにし出だし
たるさまにて、ひしめき合ひ③たり。
この児、さだめておどろかさむずらむと、待ちゐたるに、僧の、「もの申しさぶらはむ。おど
ろか④せたまへ。」と言ふを、うれしとは思へども、ただ一度にいらへむも、待ちけるかともぞ
思ふとて、いま一声呼ば⑤れていらへむと、念じて寝たるほどに、「や、な起こしたてまつりそ。
をさなき人は、寝入りたまひ⑥にけり。」と言ふ声のしければ、あな、わびしと思ひて、いま
一度起こせかしと、思ひ寝に聞けば、ひしひしと、ただ食ひに食ふ音のしければ、ずちなくて、
無期ののちに、「えい。」といらへたりければ、僧たち笑ふこと限りなし。