しょうぺん
つら
時節であった。然しこうなると四畳半も引き払わなければならん。 生れてから東京
かまくら
以外に踏み出したのは、同級生と一所に鎌倉へ遠足した時ばかりである。今度は鎌
倉どころではない。大変な遠くへ行かねばならぬ。地図で見ると海浜で針の先程小
さく見える。どうせ碌な所ではあるまい。どんな町で、どんな人が住んでるか分ら
ん。分らんでも困らない。心配にはならぬ。只行くばかりである。尤も少々面倒臭
い。
じまん
ふいちよう *
もて
しゃべ
家を畳んでからも清の所へは折々行った。清の甥と云うのは存外結構な人であ
おれが行くたびに、居りさえすれば、何くれと款待なしてくれた。清はおれを前へ
置いて、色々おれの自慢を甥に聞かせた。今に学校を卒業すると麹町辺へ屋敷を買
って役所へ通うのだなどと吹聴した事もある。独りで極めて一人で喋舌るから、こ
つちは困まって顔を赤くした。 それも一度や二度ではない。折々おれが小さい時寐
小便をした事まで持ち出すには閉口した。甥は何と思って清の自慢を聞いていた
か分らぬ。只清は昔風の女だから、自分とおれの関係を封建時代の主従の様に考え
ていた。自分の主人なら甥の為にも主人に相違ないと合点したものらしい。甥こそ
いい面の皮だ。
がてん
しゆうじゆう
ね