次の文章には、ピアノの音の調整をする調律師の見習いをしている「僕
(外村)」が、先輩の柳の助手として、一軒の家を訪れたときのことが
書かれている。この文章を読んで、あとの問いに答えなさい。(1点)
その子はおずおずと歩み寄り、ぽろぽろぽろっと音を出した。僕は思
わず椅子から腰を浮かせた。鼓膜に鳥肌が立っていた。
「どうぞ、しっかり弾いて確かめてみてください」
そろ
彼女は椅子を引いてすわった。そうしてゆっくりと鍵盤の上に指を滑
らせた。指を動かすための練習曲だ。美しかった。粒が揃っていて、端正
正で、つやつやしていた。鼓膜の鳥肌は消えない。
彼女は弾き終えた手を膝の上に揃え、それからうなずいた。
「ありがとうございます、いいと思います」
恥ずかしいのか、うつむいて小さな声だった。
「じゃあ、これで」
「あ、待ってください」
彼女は顔を上げた。
「妹が帰ってくるはずなので、少しだけ待ってもらえますか」
柳さんはにこやかに、いいですよ、と答えた。
彼女がピアノ室から出ていってまもなく、お茶が運ばれてきた。
「娘が帰ってこなかったら、けっこうですから」
母親がテーブルにお茶をならべながら、小声で言って微笑んだ。
五分も経たないうちに、勢いよく玄関ドアの開く音がした。
「ただいまぁ」
弾むような声と足音が近づいてくる。
ほほえ
2かず
「よかった、間に合った」
女の子の声がして、次の瞬間、ふたつの顔が現れた。さっきの子と、
今帰ってきたらしい子。ふたつの顔はほとんど同じだった。
ゆに
「和は弾かせてもらったんでしょ。じゃあ、あたしはいいよ」
「ううん、弾いて。確かめて。私と由仁のピアノは違うんだから」
すぐに、ピアノが始まった。
さっき「姉」が弾いたのとはまったく違うピアノだったむピアノ
と、静かなピアノ。「妹」のピアノは色彩にあふれていた。
彼女は、ふと弾くのをやめて、こちらをふりかえった。
「もう少しだけ明るい感じの音にしていただきたいんです」
ピアノの向こうで 「姉」も一緒にまじめな顔をしている。
柳さんが調整し直したピアノを、「妹」はふたたび弾いた。
「あっ、なんだか音がきれいに響くようになってる!」
まもなく弾くのをやめて立ち上がり、勢いよく頭を下げた。
「どうもありがとうございました」
「姉」も揃って頭を下げる。ふたりはそっくりだった。ただ、弾いたピ
アノの音色ははっきりと違った。それでもピアノに望む音は同じなのだ
ろうか。
「どう思いました?」
車に乗り込んで、真っ先に聞いた。
「相変わらずおもしろいピアノを弾く子だったなあ」
ふふっと忍び笑いを漏らして柳さんは言った。
が
「情熱的でいいじゃない。 調律し甲斐があるってもんだ」
おもしろいという感覚とはちょっと違ったが、情熱的だという見方に
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