物語 30
12
『大和
作者未詳
I
その時、
苦労
せっつのくに
昔、摂津国に女が住んでいた。女には、結婚を望む男が二人いたが、年齢、容姿、
愛情の深さもまったく同じ程度であったので、女は結婚相手を決めかねていた。
(注1) ひらばり
極
そのかみ、生田の川のつらに、女平張をうちてゐにけり。かかれば、そのよば
いくた
ほとりに
やりて、親の言ふやう、「たれもみこころざしの同じやうなれば、この幼きもの
にて侍る。今日いかにまれこのことをさだめてむ。あるは遠き所よりいまする!
いずれにせよ
ながらそのいたづき限りなし。これもかれもいとほしきわざなり。」と言ふ時に、
5 こびあへり。「申さむと思う給ふるやうは、この川に浮きてる水鳥を射給へ。
らむ人に奉らむ。」と言ふ時に、「いとよきことなり。」と言ひて、射るほどに、一
今一人は尾のかたを射つ。そのかみいづれと言ふべくもあらぬに、女思ひわづ
(注2)
すみわびぬわが身投げてむ津の国のいくたの川は名のみなりけり
とよみて、この平張は川にのぞきてしたりければ、ブ