時に、残月、光冷ややかに、白露は地にしげく、樹間を渡る冷風はすでに暁の
近きを告げていた。人々はもはや、事の奇異を忘れ、粛然として、この詩人の薄
一幸を嘆じた。 李徴の声は再び続ける。
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なぜこんな運命になったかわからぬと、先刻は言ったが、しかし、考えように
よれば、思い当たることが全然ないでもない。人間であったとき、おれは努めて
人との交わりを避けた。人々はおれを据傲だ、尊大だと言った。実は、それがほ
とんど羞恥心に近いものであることを、人々は知らなかった。もちろん、かつて
の郷党の鬼才と言われた自分に、自尊心がなかったとは言わない。しかし、それ
は臆病な自尊心とでも言うべきものであった。おれは詩によって名を成そうと思
いながら、進んで師に就いたり、求めて詩友と交わって切磋琢磨に努めたりする "
ことをしなかった。かといって、また、おれは俗物の間に伍することも潔しとし
なかった。ともに、我が臆病な自尊心と尊大な羞恥心とのせいである。己の珠
にあらざることを惧れるがゆえに、あえて刻苦して磨こうともせず、また、己の
せっさたくま
たま
おそ
珠なるべきを半ば信ずるがゆえに、碌々として瓦に伍することもできなかった。
⑩ ふんもん ③さんい
おれはしだいに世と離れ、人と遠ざかり、憤悶と悪恚とによってますます己の内
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きょごう